Twitterが「X」になってから約3年。
それでも今なお、「Xって呼ぶのダサい」「Twitterのほうがよかった」と感じている人は多いと思います。
もちろん、それ自体は全然いいです。青い鳥のほうが好きだった、昔のタイムラインのほうが使いやすかった、インプレゾンビが嫌だ。ユーザーとしての好みは自由です。
ただ、ひとつだけもったいないことがあります。
「なぜTwitterをXにしたのか」を知らないまま、イーロン・マスクが適当に壊しただけだと思ってしまうことです。
そもそもこの買収、金額からして普通ではありません。
イーロン・マスクがTwitterを買った金額は、約440億ドル。当時の為替によって変わりますが、日本円にすると数兆円規模です。さらに買収には約130億ドルの借入が使われました。
数兆円を払って世界的なSNSを買い、そこから社員を大量に減らし、Twitterという超有名ブランドまで捨てて「X」にする。
普通に考えたら、
「何してんの?」
と思います。
だから今回は、「Xが好きか嫌いか」ではなく、なぜそこまでしてTwitterを作り変えたのかをビジネス目線で見てみます。
まず「440億ドルでTwitterを買った」の重さを知ってほしい
2022年10月、イーロン・マスクはTwitterを約440億ドルで買収しました。
しかも全額を自分の財布から現金で払ったわけではありません。金融機関から約130億ドルを借り入れて買収しています。
ここが結構大事です。
借金をして会社を買えば、当然その後に利息を払う必要があります。
Reutersは買収直後、Twitterが今後12カ月で負担する利払いが約12億ドルに達する可能性があると報じています。
つまり、
「Twitter買ったぞ。ゆっくり改善しよう」
なんて状況ではありません。
毎年とんでもない額の利息が出ていく。
しかもTwitter自体も、買収前からずっと絶好調だった会社ではありません。
2021年の売上高は約50.8億ドルありましたが、最終損益は約2.21億ドルの赤字。2020年も約11.4億ドルの赤字でした。
もちろん2018年、2019年には黒字だったので「Twitterはずっと赤字だった」という言い方も違います。
ただ、世界中で使われる超有名サービスの割に、安定してめちゃくちゃ儲かる会社ではなかったわけです。
これを440億ドルで買って、さらに巨額の借金まで背負った。
そりゃ、経営をそのままにするわけにもいきません。
出典Twitter, Inc. 2021 Annual Report(SEC)sec.gov
買収直後に社員を半分切ったのは、かなり乱暴だけど理由は分かる
マスクがTwitterを買収してすぐ始めたのが、大規模な人員削減でした。
2022年11月、Twitterは従業員の約50%を削減。買収前には約7,500人いたため、最初の削減だけでも約3,700人規模です。
さらにその後、
「長時間、高強度で働くTwitter 2.0に参加するか、退職するか」
というかなり強烈な方針が出され、追加で多くの社員が辞めました。
これだけ聞けば、
「イーロンやばすぎ」
で終わります。
実際、人を削りすぎたことでサービス運営やコンテンツ管理への懸念も出ましたし、労務を巡る訴訟も起きています。
ただビジネス目線で見ると、マスクがやったことは非常に分かりやすいです。
「この会社、今の人数本当に必要?」
を最初から疑った。
会社を買うために借金を背負い、毎年巨額の利息が出ていくなら、固定費として大きい人件費をまず見る。
かなり強引ですが、経営者の発想としては理解できます。
そして実際、買収後のTwitterはお金の面でかなり苦しかった
「でもイーロンなら金持ちだし余裕でしょ」
と思うかもしれません。
会社の経営は別の話です。
2023年7月、マスク自身がTwitterのキャッシュフローは依然としてマイナスだと説明しています。
理由として挙げたのが、広告収入が約50%減ったことと、重い借金負担でした。
つまり、
社員を大量に減らした
↓
それでもまだキャッシュフローは赤字
↓
広告収入も大幅減
↓
さらに借金の利払いもある
という状態です。
「Twitterを買って好き放題している金持ち」
という見方だけだと、この部分が抜けます。
実際には、440億ドルの買収後に巨大なコスト削減と収益改善を同時にやらなければならない会社になっていました。
それでも「Twitter」という名前を捨てたのは、Twitterを残す気がなかったから
そして2023年7月、「Twitter」が「X」になりました。
ここが一般ユーザーからすると一番意味不明だったところかもしれません。
Twitterという名前は世界中で知られていました。
「Tweet」という言葉まで日常語になっていた。
普通なら絶対残したくなるブランドです。
それを捨てた。
でも、マスクがやりたいことを知ると少し見え方が変わります。
買収前からマスクは、Twitter買収を**「XというEverything Appを作るための加速装置」**という趣旨で説明していました。
つまり、
Twitterをもっと良いTwitterにする
ではなく、
Twitterを材料にして、まったく別の巨大サービスを作る
のが目的です。
「Everything App」って、結局なに?
ここで「Everything Appって何?」となると思います。
かなり簡単に言えば、ひとつのアプリの中で日常のいろいろなことを済ませられるサービスです。
今の僕たちは、
人と連絡するならLINE。
動画を見るならYouTube。
仕事を探すなら求人サイト。
お金を送るなら銀行や決済アプリ。
AIを使うならChatGPTやGrok。
というように、目的ごとに別々のサービスを使っています。
マスクがXでやろうとしているのは、これをなるべく一つにまとめることです。
投稿を見る。
人とメッセージする。
動画を見る。
音声・ビデオ通話をする。
求人を探す。
AIを使う。
そして将来的には、お金を送ったり決済したりする。
「SNS」ではなく、生活の入口になるアプリを作ろうとしているわけです。
イメージとして近いのは、中国のWeChat(ウィーチャット)です。
WeChatはメッセージだけでなく、決済、買い物、予約など、さまざまな機能をひとつのアプリ内で使えることで知られています。
マスクが以前から語っている「Everything App」も、方向性としてはこうしたスーパーアプリに近いものです。
だから、
「なんでTwitterという有名な名前を捨てたの?」
への答えも少し見えてきます。
Twitterをもっと良いTwitterにしたかったのではなく、Twitterのユーザー基盤を使って、もっと大きな別サービスを作りたかったからです。
そのため、「Twitter」という名前より、もっと広い意味を持たせられる「X」に変えた。
そう考えると、ただの改名ではなくなります。
出典X「One year in, the future of X is bright」blog.x.com
Xになってから、実際に「SNS以外」の機能を増やしている
構想だけではありません。
Xになってからは、
長文
動画
音声・ビデオ通話
求人
クリエイターへの収益分配
Community Notes
AI
決済・送金
など、SNSの外側へどんどん機能を広げています。
さらに2025年には、マスクのAI企業xAIがXを330億ドル相当で取得し、XとAI事業の統合も進みました。
ここまで来ると、
「なんでTwitterの名前捨てたの?」
への答えはかなりシンプルです。
Twitterを作りたかったわけではないからです。
SNSだけではなく、
情報を見る
↓
人と話す
↓
動画を見る
↓
AIを使う
↓
仕事を探す
↓
お金を動かす
まで一つにしたい。
それを「X」と呼んでいます。
「サーバーの電源を抜いた」みたいな話も、経営思想は同じ
マスクのTwitter改革には、かなり豪快な逸話があります。
有名なのがデータセンターの話です。
Twitterが使っていた設備について、移転には長期間必要だと説明されたマスクが納得せず、自分で現地まで行って短期間で移転を進めたとされています。
ネットでは「必要か分からないサーバーの電源を抜いて確かめた」くらい派手に語られることがありますが、そのまま全部を事実として受け取るのは注意が必要です。
ただ、マスクの考え方は一貫しています。
「これ本当に必要?」
と言われて、
「必要です」
と答えるだけでは納得しない。
じゃあ止めたら何が起きるの?
くらいまで試す。
人員削減でも、サーバーでも、ブランド名でも同じです。
既存の会社が「昔からこうしているから」で続けていたものを、一回全部疑う。
良くも悪くも、これがマスク流です。
政治や言論についても、旧Twitterに問題がなかったわけではない
マスクがTwitterに強い不満を持っていた理由のひとつが、言論の扱いです。
旧Twitterでは、会社が投稿削除やアカウント停止を判断していました。
2020年の米大統領選前には、Hunter Biden氏を巡るNew York Postの記事のリンク共有をTwitterが一時的に制限。その後、当時のTwitter幹部は米議会で対応が誤りだったと認めています。
一方で、「政府に命令されてTwitterが記事を消した」という単純な話でもありません。
ここは政治的な意見が混ざりやすいので、
「旧Twitterは完全な検閲組織だった」
とも、
「旧Twitterに何の問題もなかった」
とも言わないほうがいいでしょう。
ただ、一企業が世界中の言論について大きな判断権を持つことにマスクが強い問題意識を持っていたのは、Xへの改革を見るうえで重要です。
その流れで強化されたのがCommunity Notesです。
会社だけで判断するのではなく、利用者側から補足情報を付ける仕組みに比重を移しています。
じゃあX改革は成功なの?というと、まだ全然分からない
ここまで書くと、
「じゃあやっぱりイーロンは正しかったんだ」
と思うかもしれません。
それも早いです。
買収後には広告収入が大きく落ち、2023年にはマスク自身も約50%減と説明していました。
一方で2025年には、外部予測でXの広告収入が買収後初めて年間増加に転じる見込みとも報じられました。ただし、それでも2021年当時の水準には届かないとされています。
さらに面白いのが「会社の値段」です。
2022年の買収額は440億ドル。
2025年にxAIがXを取得した際の評価額は、負債を除いて330億ドルでした。
単純比較はできませんが、
「440億ドルで買ったTwitterをめちゃくちゃ変えて、3年後にXとして330億ドル評価」
という数字を見るだけでも、この改革が簡単な成功物語ではないことが分かります。
だから今のところ、
大成功とも言えないし、大失敗とも言い切れない。まだ途中です。
「Twitterのほうがよかった」はいい。でも440億ドルの背景くらい知ると見え方は変わる
僕は、
「昔のTwitterのほうが好き」
という人を否定したいわけではありません。
むしろ普通の感想だと思います。
でも、今回の話を知ったあとだと、
「TwitterをXって名前に変えただけ」
には見えなくなるはずです。
440億ドルで買収。
約130億ドルの借金。
年間約12億ドル規模の利払い。
社員を約半分削減。
広告収入は一時約50%減。
それでもTwitterブランドまで捨てる。
そして最終的にはSNSではなく、AIや決済まで含めた「Everything App」を狙う。
かなり大きな賭けをしています。
それを知ったうえで、
「いや、それでもTwitterのほうがよかったわ」
なら全然いい。
ただ、
「Xって名前ダサい。イーロン意味分からん」
だけで終わるより、ビジネスとしてはこっちのほうが圧倒的に面白いと思います。
まとめ|「前のほうが好き」の前に、なぜ変えたのかを一回見る
TwitterからXへの変化は、単なる改名ではありません。
マスクは約440億ドルをかけてTwitterを買い、巨額の借金を背負いながら、社員数やコスト、言論管理、サービス内容、そしてブランド名まで大きく作り変えました。
目的は、Twitterを残すことではなく、Twitterのユーザー基盤を使って「X」というもっと大きなサービスを作ることです。
そして、その「もっと大きなサービス」がEverything Appです。
SNSだけではなく、メッセージ、動画、AI、求人、決済などまで一つにまとめ、Xを「日常の入口」にしようとしている。
成功するかどうかは、まだ分かりません。
でも僕は、普段使っているサービスが変わったとき、
「改悪された」
で止まるより、
「なんでこの会社はこんなことしたんだろう?」
と一回考えてみるほうが面白いと思っています。
知らずに嫌う必要もないし、知ったから好きになる必要もない。
知ったうえで、「それでも俺はTwitterのほうが好きだった」でいいんです。
出典Twitter, Inc. 2021 Annual Report(SEC)sec.gov
出典X「One year in, the future of X is bright」blog.x.com
出典X「Transforming the Global Town Square」blog.x.com
出典X Moneymoney.x.com
